融雪に適した熱源の選定について

野沢温泉村の地域であれば、電気より灯油式を推奨するとの回答でしたが、
再度その理由をお伺いしてもよろしいでしょうか。

2022年12月3日 某設計者様より

現在、長野県内のプロジェクトについていくつかお問い合わせを頂き、対応しています。

その中で、多くの方が疑問に思われるであろう質問がありましたので、良い機会と思い、こちらにも回答をご紹介しておきます。

以下、上記のご質問に対する当社からのご返答です。


お問い合わせ、ありがとうございます。

熱源が電気であれ、灯油・ガス等の燃焼機器であれ、降雪を処理するための単位面積当たり負荷は変わりませんので、あとは各燃料の単位熱量当たり単価が幾らになるかによって変わってきます。

一般的には
LPG > 電気 > 灯油 > LNG
という条件になる場合が多いと思います。

特に厳寒地ではデフロストによる出湯休止が問題になりやすいヒートポンプでなく、COP=1となる 抵抗負荷を採用されるでしょうから、負荷設備容量を大きくとれば、それがそのままデマンドや基本料金に効いてきます。

それにより、降雪の多寡によらず毎年少なからぬ固定費を支払う羽目になります。

逆を返せば、灯油を用いた温水循環式では基本料金という概念はなく、小雪の年には運転時間が少なった分、従量料金が下がるだけですから降雪量が年度によって大きく増減するような地域では電気ではなく灯油を用いることの方が向いているといえます。

ガスについては契約形態によって電気契約のように基本料金が発生するものもありますので、どちらかといえばコスト構造は電気に近いかもしれません。

(施工地によりLNGのこともあればLPGのこともあり、また運営母体が民間会社の場合も自治体事業の場合もあるため契約形態・料金設定の条件が多様だと思います)

そもそも降雪現象と雪に対する防災対策としての融雪設備は、降雪・積雪という現象をうまく理解しないと始まらないのですが「雪」は突き詰めれば氷と水と空気の混合物であり、気象条件や周囲環境によってその密度や物理的性質が異なるものでありランニングコストの最小化を図るには放熱出力を柔軟にコントロールできる装置の方がより適しています。

電気ヒーターを採用する場合には、前述の理由から
「設備容量を可能な限り小さく設計したい」
という発注者/元請側の意見が採用される場合が多いため、短時間に大量の降雪があったり、燃費節約のために運転を停止して雪が溜まった状態から始動するような条件下では放熱出力不足からうまく雪が融かし切れない場合が多いものです。

また、あとから設備容量を増強しようとするとイチからやり直しになるはずです。

その点温水循環式では(流量)×(平均循環温度)でおおよその放熱出力が決定できることから、設備の運用開始後であってもそれら2つのパラメーターを可変することにより放熱出力を大きくも小さくも調整可能という特徴があります。

したがって野沢温泉などのように標高が高く、気温が低い雪処理にとってシビアな条件下では電気でなく灯油・ガスなどの燃焼器を用いることがより適していると言えます。

例外的に電気を用いる事例としては、
1)熱源機の燃料となるべき灯油やガスの適期配送が困難な遠隔地や無人施設
2)電力のコストが一般民生に比べ限りなく小さくできる電力会社や鉄道会社
で電気ヒーターを使用する場合があります。

ちなみにこのご返信をする際、100㎡の屋根に対してガスボイラー、電気ヒーター、灯油ボイラーを採用したとして1シーズンのランニングコストを試算したところ、

1.ガスボイラー(LPG、長野県野沢温泉村’21/12単価)

約 330,000円/シーズン

2.電気ヒーター(中部電力、従量電灯C契約)

約 310,000円 /シーズン

3.灯油ボイラー(新潟県十日町市’22/12単価)

約 150,000円 /シーズン

4.ガスボイラー(LNG、新潟県小千谷市’22/12単価)

約 110,000円/シーズン

となりました。なお、シーズン当たりランニングコストは燃料単価、現地降雪量、施工方法等により大きく異なる場合がありますので、あくまでもご参考程度として頂きますようお願い致します。